【プロジェクトの目的】
CO2等温暖化ガスの低減およびエネルギー創出・有効利用は,地球環境の保全,人類の持続的発展に不可欠な緊急かつ重要なグローバルな課題であり,今や全世界において国を挙げた取組が活発になされている。しかしなから,効率やコスト,資源量等の観点において,既存技術では不十分であり,革新的な材料およびデバイス,システムの創出が望まれている。このような背景を受けて,本プロジェクトは,図1の例に示すような,エネルギーや物質循環システムの核となる革新的なデバイスや物質変換システムを構築し,次世代のエネルギー技術やシステム開発研究で世界をリードする研究教育拠点の構築を目指すものである。
長崎大学第2期中期目標・中期計画における重点研究課題「次世代エネルギー物質科学の基盤構築」(代表:森口,最終評価A+)において,新しいエネルギー材料・物質合成技術の開発に挑戦し,インパクトのある先導的な研究成果を得るに至っている。本プロジェクトは,これを足掛かりにして,長崎大学独自の最先端技術の創出から次世代技術としての応用展開を図り,例えば系統連系技術をも含めた高性能蓄電システム技術や次世代エネルギーシステムの開発への展開を目指す。
【本プロジェクトでの研究達成目標】
本中期期間中においては,第2期重点研究課題で開発した新規なエネルギー材料および物質合成技術をさらに高度化し,また新たな革新的なデバイスや合成技術の開発にも挑戦する。その上で,大型競争的外部資金プロジェクトや企業・国内外研究機関との共同研究へ進展させ,社会実装を含めた応用展開を目指す。また,本研究開発を通じて,環境・エネルギー等分野で将来グローバルに活躍する若手研究者育成も積極的に行う。
1.革新的物質科学研究
エネルギー技術に係る国内外の研究開発は,自然エネルギー発電や燃料電池などの発電システムの開発から,Liイオン二次電池やキャパシタなどの蓄電デバイス開発,系統連糸技術(スマートグリッドなど)の開発,水素エネルギーやメタン・アルコール等のエネルギー資源創出技術など,多方面から活発に行われている。それらの中で,当研究グループが有する研究アプローチ・材料の特長やアドバンテージを活かして,将来に核となりうる革新的な技術開発を目指す。特に,革新的なエネルギー変換・貯蔵デバイス (電池やキャパシタ等) 材料の開発と新規なエネルギー資源合成技術の開発に焦点を絞り,研究展開を図る。
(1)革新的エネルギー変換・貯蔵デバイスの開発
エネルギー変換・貯蔵デバイスの開発については,電池やキャパシタを対象として,当グループが世界的にリードするナノレベルでの材料設計により,高機能な電極材料の開発からセルとしての高性能化,新原理電池等の開発を行う予定である。その過程において,ナノ材料特有の作用機序の新たな解明など,新しいサイエンスの発展に貢献するとともに,企業等との連携による実用化への応用研究も進める。- ①高機能ナノ電極材料の開発
- 現行の電池開発において,長距離走行可能な本格的EVのための高性能蓄電デバイスは,十分な開発がなされていない(車載重量を考えずに多くの電池を搭載したEVは試作されているが,実用・普及には程遠い)。要求される性能は,現行のLiイオン二次電池の限界を超えているとも言われている。しかしながら,ナノレベルでの材料設計は,その限界を打破できる可能性があり,正に当研究グループが世界に先んじているナノ構造制御・設計が大いに威力を発揮できると期待する。正負極材料のナノサイズ化,ナノ多孔化,ナノ複合化により,電極界面における反応プロセスの高効率化を図り,Liイオン電池の限界性能の大幅な向上を達成する。 一方,元素戦略の関連において,Liを他元素で代替した電池開発は重要である。この観点において,第2期重点研究課題では,Naイオン電池プロトタイプの開発に成功した。本プロジェクト研究では,新規材料開発によりNaイオン電池のさらなる高容量化(先行しているLiイオン電池に匹敵する性能)を目指す。
- また,キャパシタはLi電池等よりもエネルギー密度が小さいが,高出力であり,サイクル安定性に優れる蓄電デバイスであることより,その用途は広い。申請者らは,ナノ多孔カーボン細孔内では,バルク溶液中とは異なる特異的な電解質イオン状態を有していることをすでに明らかにしており,これを利用して,キャパシタ機能の飛躍的な向上(現状の2倍以上の容量達成)を目指す。 以上の研究を推進する過程で,ナノ構造と電気化学的特性の関係を明らかにするため,in situにてSTEM分析する新しい技術を開発し,これまで未解明であったナノ物質空間における作用機序を解明する。また,実用化が見込める材料については,企業等と連携して高性能デバイスとしての応用に展開する。
- ②高性能全固体型電池の開発
- 安全性の観点から現行の電解液を固体電解質に置き換えた全固体型二次電池の開発は次世代電池として注目されている。しかしながら,固体中のイオン伝導性が低いため,薄膜電池系での研究例に限られる。本研究では,これまでに報告例がないナノ多孔材料を電極活物質とした革新的な全固体型Liイオン二次電池の開発を行う。本研究においても,企業等との連携を図る予定である。
- ③新原理デバイスの開発への挑戦
- これまでのイオン二次電池の容量は,活物質へのイオンの挿入脱離量に依存するため,必然的に化学組成や結晶構造による制約を受ける。これに対し,イオンとの反応に基づかないホール,電子の移動に依存した新しい原理の量子電池の開発に挑戦し,二次電池の常識を打ち破る巨大容量の革新電池開発を目指す。
(2)革新的なエネルギー資源合成技術の開発
化石燃料に代わる新しいエネルギー資源の創出は重要な課題であり,現在では,バイオ燃料の合成やメタンガス回収などの技術開発が活発に行われている。そのような背景において,本研究では,温暖化ガスの排出削減とエネルギー資源創出を同時に解決できるような新技術の開発に取り組む。例えば,図1に示すように,CO2を効率よくメタンやアルコール等に変換できれば,排出されるCO2を回収して物質変換し,燃料電池の燃料に利用し,発電するなど,一連の物質循環システムが構築できることになる。このようなシステム構築において,エネルギー資源創出のための物質変換技術の開発は要素技術として重要であるが,高効率な物質変換技術はいまだ確立されていない。
第2期重点研究課題において,有機金属触媒や錯体触媒を利用してCO2を有機分子骨格内に導入する新規反応や新しいCO2光還元反応系の開発に成功している。また,金属酸化物触媒によるCO2からメタン生成が可能であることも明らかにしている。本プロジェクト研究では,これら反応のさらなる高効率化を達成するとともに,メタン等アルカン類のアルコール等への変換反応の開発にも挑戦し,有用エネルギー資源開発のバリエーションの拡大を図る。
- ①CO2の高効率変換・固定化反応システムの開発
- CO2還元反応系については,これまでの各触媒反応系の高効率化を達成する。錯体触媒では,主流である高価な金属からなる遷移金属系触媒をホウ素やアルミニウム等の安価で元素戦略的に有利な新しい錯体触媒で代替したCO2光還元反応系の開発も行う。また,有機金属や金属錯体触媒系と金属酸化物等無機材料系とのハイブリッド化により,より一層の高効率化を図るとともに,流通系不均一触媒システムとしての展開の可能性も検討する。
CO2挿入反応系については,メタンに対する増炭反応を開発する。例えば,メタンから酢酸や長鎖カルボン酸合成を達成し,CO2を炭素源として生成するメタンからの各種有用化合物への物質変換スキームの構築を図る。研究進展状況によっては,企業との連携も積極的に進める。 - ②メタンの直接的物質変換への挑戦
- メタンハイドレートやシェールガス等のメタンを低エネルギーでアルコール等に物質変換することは,資源有効利用の観点において大きなインパクトがある。しかしながら,高効率な直接的変換系はないのが現状である。本研究では,各種触媒系を駆使して,メタン(アルカン)の直接的酸化による高選択的メタノール(アルコール)合成反応の開発に挑戦する。
【若手研究者の育成,その他】
本研究課題は,大学院工学系研究科のグリーンシステム創成科学専攻(5年一貫制)の研究教育においても重要な位置づけにある。すなわち,環境・エネルギー分野で将来活躍する若手研究者を輩出するためには,分野横断的で国際的な視点を持ちつつ,オリジナリティのある研究展開力の養成が不可欠である。本申請課題を通して,大学院学生に次世代を睨んだ最先端の研究を共に経験させ,また学外研究者(特に外国人研究者)との意見交換や海外研修の機会を設けるとともに,国内外の学会での研究成果発表を積極的に推進して,育成を図る。本研究課題メンバーにおいて,積極的に博士後期課程(5年一貫制,区分制博士後期)学生の確保に努める。
また本申請課題は,工学研究科未来工学研究センターのプロジェクト研究においても重要な位置づけにあり,研究科をリードして,研究活性化に貢献する。そのためには,本研究課題において,インパクトファクター(IF)付論文発表を100報以上,3,000万円以上の競争的大型外部資金等を含む積極的な外部資金獲得を目指す。